地球温暖化の原因や現状、影響を前章で見てきましたが、これを防ぐために、どんなことが行われ、今後どんな対策が必要となるかを見てみましょう!!!
ここがはじまり・・・地球サミット
地球温暖化が進んでいることは、一部の科学者たちはかなり早い段階で気付いていたようですが、これが人類の課題として国際的に取り上げられるようになったのは、1992(平成4)年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミットからです。地球サミットとは、約180の国と地域、1万を超えるNGOが参加した「環境と開発に関する国連会議」のことです。
持続可能な開発をめざし、世界の今後の環境保全のあり方を指し示す「リオ宣言」や21世紀に向けた行動計画「アジェンダ21」が採択されました。また地球温暖化防止のための国際的な枠組みを定める「気候変動枠組条約」の批准もこの会議から始まりました。
よく耳にする"Think globally, act locally"という地球温暖化対策のキャッチフレーズが日本で使われだしたのは、このあたりからです。
国際的な枠組み・・・気候変動枠組条約(通称、温暖化防止条約)
気候変動枠組条約は、二酸化炭素などの温室効果ガスの大気中濃度を安定化し、温暖化がもたらすさまざまな悪影響を防ぐための国際的な枠組みを定めたものです。この条約は地球サミットからわずか2年後の1994(平成6)年に発効しました。条約に基づいて具体的な対策をどう進めるかについては、条約を締結した国々が集まって毎年会議を持ちます。これがCOPと呼ばれる会議です。
地球温暖化防止京都会議(COP3)
このCOPの中でも、1997(平成9)年に京都で開かれたCOP3は特に有名です。日本が議長となったこの会議で、初めて具体的な温暖化対策の国別目標と手法が合意されたからです。この合意は「京都議定書」と呼ばれます。
国別の削減目標は下表のとおり(日本、アメリカ、EUのみ記載)ですが、このような目標が定められたのが、それまでに温室効果ガス排出量が多かった先進国のみであった(急速に排出量を増やしていた中国などは目標が課せられなかった。)ことから、途中でアメリカが離脱するなどの紆余曲折があり、その発効(2005(平成17)年)まで7年以上の期間を要することになりました。
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その後開かれた何回かのCOPで、京都議定書の削減目標の具体化等に向けて、さまざまな調整が行われ、「京都メカニズム」と呼ばれる国際排量取引、共同実施(JI)、クリーン開発メカニズム(CDM)の制度が具体化されていきました。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
IPCCは、ゴア元アメリカ副大統領といっしょに、2007年度のノーベル平和賞を受賞したことにより、広く知られるようになりました。Intergovernmental Panel on Climate Changeの略称で、「気候変動に関する政府間パネル」と訳されています。
国連環境計画と世界気象機関が共同で1988年に設立した機関で、地球温暖化問題に関する科学的な研究成果の評価や、温暖化の影響と対応方策の研究を行い、政策決定者向けのレポートを数年おきに発表しています。日本を含む世界各国から2000名位の科学者と政府関係者が参加しています。
テレビニュースは短い世間の目を下回ったアフリカのうち、
2007年にIPCCが発表した第4次評価報告書は、今起こりつつある地球温暖化は、ほぼ確実に人間の一定の活動に起因するとの結論を出すとともに、地球温暖化の進行や影響の予測結果などをまとめたもので、世界に衝撃を与えました。
わが国での京都議定書の目標達成のための計画
京都議定書は、数値目標を課せられたのは先進国のみであり、後にアメリカが離脱するなどの問題をはらみつつも、世界の温暖化対策の基本戦略として機能してきました。
わが国でも、京都議定書の目標を達成するために「京都議定書目標達成計画」をつくり、国、地方自治体、企業、国民を挙げて対策に取り組む体制づくりや制度づくりを進めてきています。
この計画では、基準年比6%削減の目標を、二酸化炭素等の排出削減分で0.6%、森林による二酸化炭素などの吸収分で3.8%、そして京都メカニズムと呼ばれる排出量の国際取引などで1.6%削減して達成することとしています。
わが国で進められてきた排出量削減のための主な対策
京都議定書目標達成計画に基づいて、産業、家庭、業務(商店・オフィスなど)などの部門ごとにさまざまな対策が進められました。また二酸化炭素排出が少ない自然エネルギーの活用が全部門にわたって進められています。さらに地域ごとに、その特徴を活かしたさまざまな工夫が行われています。
■産業部門
産業部門では、わが国の高い省エネ技術を活かしてなお一層省エネを進めるとともに、業界団体ごとの自主行動計画が策定され、業種に対応した省エネ・省資源などが進められています。この部門の温室効果ガス排出量は減少しています。
■家庭部門・業務部門
家庭部門では、家庭内での省エネを進めるための普及啓発(行政だけでなく、国民・企業が主体となった普及啓発も盛んになりました。)がさまざまに工夫されて展開されています。
冷蔵庫、テレビ、給湯器、エアコン、照明などの家庭用機器については、その省エネ化が進められるとともに、省エネ型機器の普及のための補助制度等(高効率給湯器などの補助制度や「家電エコポイント制度」など)や「省エネラべリング制度」などが進められてきました。
また家庭における自然エネルギーの普及拡大を目指し、住宅用太陽光発電システム導入促進のための補助制度が、国や地方自治体に設けられ、一方、発電した電気のうち、自家用に使わなかった電気(余剰電力)を電力会社が買い取る買取制度も創設されました。買取制度については、2009年11月より、余剰電力を電力会社が供給している電気の価格より高く買い取り、その費用を国民に薄く広く負担してもらう「固定価格買取制度」がスタートしました。
業務部門においても、省エネ性能の高い給湯器や省エネ型の空調機などの設備が次々と開発され、またそうした設備導入に向けた補助制度もつくられています。
建物自体の省エネ化を進める制度として、住宅や非住宅の省エネ基準が設定されて順次強化されていますが、最近では「住宅エコポイント制度」という支援制度が実施され、省エネ住宅の拡大が図られています。
■運輸部門
運輸部門では、二酸化炭素排出量の少ない、環境対応自動車の開発が進められ、特に最近ではハイブリッド自動車が急速に需要を伸ばしました。さらには、電気自動車も本格的に市場投入されました。
環境対応車(エコカー)の拡大のため、2009(平成21)年度からは、「エコカー減税」(自動車重量税・自動車取得税の特例を定める減免制度)に加え、国の「エコカー補助金制度」(平成22年9月7日受付分までで終了)が実施されました。
■東京都の総量規制制度
アメリカは国際的にどのように表示されている
東京都は、産業部門や民生業務部門の温室効果ガス排出量の削減を一層推進するため、2010(平成22)年度より、一定規模以上の事業所に対し、排出総量削減義務を課すとともに、排出量の取引制度を可能とする制度を導入しました(条例改正は2008年7月)。キャップ&トレードと呼ばれるこの制度は、EUで先行的に実施されたものですが、東京都の制度は、産業部門だけでなく、業務ビルも対象とする新たな試みとなっており、その成果が期待されています。
わが国の温室効果ガス排出状況
それでは、わが国の温室効果ガス排出量はどのようになっているのでしょうか?
1990(平成2)年度から2008(平成20)年度までのわが国の排出状況は、下図のとおりです。
わが国の温室効果ガス排出量の推移(1990〜2008年度)
出展)環境省報道発表資料
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- 2008年度は、前年度に比べ減少していますが、これは経済不況によるものと推計されています。それでも基準年比で言えば+1.6%で目標には到達していません。ちなみに、ドイツでは同年に基準年比23%減となっています。
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- CH4:メタン、N2O:一酸化二窒素、HFCs:ハイドロフルオロカーボン類、PFCs:パーフルオロカーボン類、SF6:六フッツ化硫黄
グラフを見て分かる通り、排出削減で0.6%減とした目標を上回る状況が続いています。この原因は、民生部門(家庭や業務(オフィス・商店など))の排出量の増加です。次のグラフを見てください。
日本の部門別二酸化炭素排出量の推移(1990〜2008年)
出展)温室効果ガスインベントリオフィス
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(
京都議定書の約束期間が終了する2012年が近づいてきており、目標の達成に向けて一層の努力と工夫が求められています。
練馬区の温室効果ガス排出の現状と予測
練馬区における温室効果ガスの排出の現状(1990〜2005年度)と、従来のままで推移した場合の将来予測は次の通りです。
練馬区における二酸化炭素排出量の推移と予測(1990-2005、2006-2012)
出展)練馬区地球温暖化対策地域推進計画(平成21年3月)
1990(平成2)年度に171.4万トンであった温室効果ガス排出量は、2005(平成17)年度には197.8万トンと15.4%増加しています。全国ベースより増加割合が高いのは、練馬区においては、産業部門の排出が少なく、家庭部門や業務部門が排出の多くを占めているためです。
そしてこのままの状況で推移すれば、京都議定書の目標年次である2012(平成24)年度には、219.8万トンまで増加していくものと予測されます。1990年度に比べると28%以上の増加です。
実際、1990(平成2)年度と2005(平成17)年度における部門別内訳を見てみましょう。
二酸化炭素排出量の部門別割合(1990、2005)
出展)練馬区地球温暖化対策地域推進計画(平成21年3月)
グラフのように、練馬区においては民生家庭部門が全体の44.5%を占め(2005年度)、これに運輸部門の自家用車が加わればさらに家庭に起因する割合は高くなります。しかも、民生家庭部門と民生業務部門は1990年度に比べて寄与率が高くなっている点にも注意を要します。
代は、メキシコの鉱山に落ちる
練馬区の対策
練馬区は、大都市東京の周辺部に位置する住宅都市というその性格から、民生部門、特に民生家庭部門の排出割合が、全国やさらには東京都全体と比べても大きいという特徴があります。
このことから、練馬区における地域の温暖化対策としては、家庭における省エネなどの環境配慮を高めることが第一の課題となります。しかしながら、家庭部門の温室効果ガス排出量の抑制は、わが国全体でも大きな課題になっており、規制的手法になじみにくく、かつ対象が膨大であるため、決め手になる対策がなかなか見出せません。いくつかの対策をうまく組み合わせて、効果を得ていくしかないというのが実情です。
特に重要なことは、家庭部門の温室効果ガス排出量を減らすためには、区民の努力だけでなく、事業者や区、関係機関がこれと連携協力していかなければならないということです。
このようなことを基本理念として、練馬区は、練馬区環境基本計画2001-2010、練馬区地域省エネルギービジョン、練馬区地球温暖化対策地域推進計画などを定め、これらに基づく施策を推進してきました。
主な対策を掲げます。
■エコライフチェック
エコライフチェックは、区民の実際の生活において、エコライフを意識して取り組んだ場合の行動と、通常の生活行動を比較しながらチェックし、その差をCO2削減量に換算して表示することでエコライフの効果を区民自身で確認することができるという取り組みです。区民と区が共同して開発した新しい、参加型の普及啓発事業です。
簡単に参加できることと、取り組んだ効果が見えることが特徴です。
具体的には、「誰もいない部屋の電気は消した」など12の項目について、参加者が決めたエコライフデーとそれ以外の日のそれぞれに実行できたかどうかをチェックします。このチェック表を区が回収して集計すると、参加者全体で、エコライフデーに取り組んだ日とそれ以外の日の実行率の差が出てきます。これをCO2量に換算すれば、エコライフデーに普段よりどのくらいCO2量が減ったかを計算できます。この集計結果を参加者全員に伝えることで、エコライフを意識した行動にどのような効果があったか、自身で確認することができます。
平成17年度の試行に始まり、18年度から本格的に取り組んできましたが、21年度までの参加者数は以下のとおりでした。
エコライフチェック事業の参加者数目標と実際の参加者数
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出展)練馬区ホームページより
2009(平成21)年度のエコライフチェック結果をみると、集計可能な29,056人が1日エコライフを意識して行動することにより約2.19トン(浴槽約4,700杯分)のCO2を削減できました。ちなみに、もし区民70万人全員が、参加者のようなエコライフデー並みの暮らし方をすると、年間21,700トンのCO2を減らすことができます。これは2005(平成17)年度の練馬区の家庭部門のCO2総排出量88万トンの約2.5%にあたります。
■地球温暖化対策設備設置補助
区内の住宅に自己使用するための太陽光発電システムや省エネ型設備(高効率給湯器など)を設置した場合、その費用の一部を補助する制度です。2006(平成18)年度からスタートし、2009(平成21)年度までに合計813件の補助を行っています。このうち太陽光発電は383件でした。
■環境保全を進める区民の育成
区と協力して自ら環境保全の活動を行うとともに、地域における環境保全を進めるための核となる人材の育成を進めています。ねりま・エコアドバイザーは、育成講座「ねりま環境カレッジ」の修了者を区長が委嘱するものです。
また、環境省の「こどもエコクラブ制度」に参加する区内の「こどもエコクラブ」を区は地域事務局として支援し、こどもの環境活動を促進しています。
■普及啓発事業
毎年6月には環境月間行事、10月には環境・リサイクルフェアのイベントを、環境保全の取り組みを行っている区民や事業者とともに開催し、地球温暖化防止をはじめ、生活や事業活動における環境配慮を呼びかけています。
また小中学生を対象に環境作文コンクールを開催し、子どもたちの環境意識の向上などに努めています。このほか、さまざまな講演会の開催、インターネットホームページによる環境情報の提供などにより、環境保全の普及啓発を実施しています。
■地球温暖化対策地域協議会
地域において地球温暖化防止活動を進めるには、区民と事業者、さらにはさまざまな団体の連携・協力が欠かせません。
そのような場として区の呼びかけにより設立されたのが、私たち「練馬区地球温暖化対策地域協議会」です。関係者の協力体制を築きあげながら、区民や区内事業者向けの温暖化対策事業を推進していきます。
練馬区地球温暖化対策地域協議会の内容の解説ページをご覧ください。
京都議定書の先に向かって
京都議定書の目標達成もまだ見通しがつかない中ですが、平均気温を安定化させ、地球温暖化の影響を最小限にとどめるためには、さらに多くの温室効果ガスの排出削減などの対策が必要だといわれています。
たとえば2008(平成20)年の北海道洞爺湖サミットでは、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減するという目標が合意され、宣言文に盛り込まれました。この目標を達成するためには、日本を含む先進国はさらに高い目標をクリアする必要があります。
このような目標の達成に向けて、気候変動枠組条約締結国会議(COP)などにおいて、2020年の中間目標をどのように設定するか議論されていますが、まだいくつかの国により目標水準やその水準の考え方が提案されている状況で、まとまっていません。
それぞれの国により、おかれている社会経済的な現状や予想される温暖化影響の大きさが異なることなどから、調整が難しいのは予想されたことですが、地球温暖化は人類全体の将来に係わる重大な問題です。早急に目指すべき目標が設定され、具体的対策が話し合われることが望まれます。
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